パートナーシップ制度の「その先」:LGBTQ+カップルが考えるべき資産形成と相続のポイント
はじめに:パートナーシップ制度とその限界
近年、多くの自治体でパートナーシップ制度が導入され、LGBTQ+カップルが社会生活を送る上での認知や理解は少しずつ進んでいます。しかし、この制度は法的な婚姻とは異なり、法的な効力には限界があります。特に、資産形成や相続といった重要なライフプランにおいては、パートナーシップ制度だけでは解決できない課題が依然として存在します。
パートナーシップ制度は、自治体が二人の関係を証明するものであり、住民票の続柄変更や公営住宅への入居申し込みなどで一定の効果を発揮しますが、民法上の夫婦とは異なり、互いを法定相続人とすることはできません。また、税法上の配偶者控除や生命保険の死亡保険金受取人における税法上の優遇措置なども、原則として適用されません。
この記事では、パートナーシップ制度を利用しているかどうかにかかわらず、LGBTQ+カップルが安心して将来を迎えるために、相続や資産形成に関して具体的にどのような課題があり、それに対してどのような対策を講じることができるのかを解説します。
LGBTQ+カップルが直面しうる相続・資産形成の課題
法的に婚姻関係にないLGBTQ+カップルが、パートナーとの関係において直面しうる相続や資産形成の主な課題は以下の通りです。
- 相続権がない: 法定相続人には配偶者、子、親、兄弟姉妹などが定められていますが、パートナーシップ制度を利用していても、パートナーは法定相続人には含まれません。そのため、パートナーに何も財産を残さないまま亡くなった場合、財産は法定相続人(親、兄弟姉妹など)に渡り、長年連れ添ったパートナーは法的に財産を受け取ることができません。
- 共有名義の資産に関する問題: カップルで住宅などを共同で購入し、共有名義としている場合、一方が亡くなるとその持ち分は法定相続人に相続されます。残されたパートナーがその持ち分を買い取る必要が生じたり、法定相続人との間でトラブルになる可能性があります。
- 生命保険の受取人指定: 生命保険の死亡保険金受取人には、原則として戸籍上の親族を指定する必要があります。同性パートナーを指定できる保険商品もありますが、その場合でも、税法上の死亡保険金非課税枠(500万円×法定相続人の数)が適用されず、多額の相続税(または贈与税)が発生する可能性があります。
- 医療同意や死後の手続き: 法的な家族ではないため、パートナーの医療行為に関する同意や、亡くなった後の葬儀、埋葬、遺品整理などの手続きについて、法的な権限がない場合があります。本人の意思やパートナーの希望が反映されにくいという問題が生じ得ます。
- 財産分与の難しさ: 解散(関係の解消)に至った場合、婚姻関係であれば財産分与が法的に保障されていますが、婚姻していないカップルの場合、明確な契約がない限り、共同で築いた財産をどのように分けるかでトラブルになるリスクがあります。
制度の限界を補うための具体的な対策
これらの課題に対して、法的に有効な手段を講じることで、パートナーとの関係や将来の安心を守ることができます。主な対策は以下の通りです。
1. 遺言書の作成
遺言書を作成することで、法定相続人以外の人(パートナーを含む)に財産を遺すことができます。パートナーに財産を遺す方法としては、「包括遺贈(財産の割合を指定して遺贈すること)」や「特定遺贈(特定の財産を指定して遺贈すること)」があります。
- 包括遺贈: 「私の財産のすべてをパートナー〇〇に遺贈する」のように、財産の全部または一部の割合を指定して遺贈する方法です。プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も引き継がれる可能性があります。
- 特定遺贈: 「自宅の土地建物をパートナー〇〇に遺贈する」のように、特定の財産を指定して遺贈する方法です。
遺言書は法的に有効な形式(自筆証書遺言、公正証書遺言など)で作成する必要がありますが、特に公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成に関与するため、方式の不備で無効になるリスクが低く、信頼性が高い方法です。遺言書によって、パートナーが財産を受け取れるようになり、法定相続人との無用なトラブルを防ぐことにも繋がります。ただし、法定相続人には「遺留分」という最低限の相続分を請求できる権利があるため、遺留分を侵害する内容の遺言は、後々争いになる可能性があります。この点も考慮して遺言内容を検討することが重要です。
2. 死後事務委任契約の締結
自分が亡くなった後の手続き(葬儀、埋葬、医療費や公共料金の支払い、行政手続き、SNSアカウントの削除など)をパートナーに委任する契約です。法的な家族ではないパートナーが、本人の意思に沿って死後の手続きを行えるようにするために非常に有効です。公正証書として作成することで、その内容の明確性と信頼性が高まります。
3. 任意後見制度の活用
任意後見制度は、将来、判断能力が不十分になった場合に備え、あらかじめ自分で選んだ代理人(任意後見人)に、自身の生活、療養看護、財産管理に関する事務について代理権を与える契約です。パートナーを任意後見人に指定することで、自分が認知症などになった場合に、パートナーが自分の財産管理や医療・介護に関する手続きを行えるようにすることができます。この契約も公正証書として作成することが法律で定められています。
4. 共同で築いた財産に関する契約
共同で購入した不動産や、協力して貯蓄した預貯金などについて、それぞれの貢献度や、万が一関係が解消した場合の取り決めなどを明確にする契約(例:共有物分割契約、財産分与に関する合意契約)を締結することも有効です。特に共有名義の不動産については、一方が亡くなった場合の持ち分の扱いについても契約で定めておくことが望ましいでしょう。
5. 生命保険・医療保険の見直し
生命保険や医療保険に加入する際には、保険会社にLGBTQ+カップルであることを伝え、パートナーを受取人に指定できるか、税法上の扱いはどうなるかなどを確認することが重要です。保険商品によっては、同性パートナーを指定できるものもありますが、非課税枠の適用など税金に関する問題が残るケースが多いため、保険会社やファイナンシャルプランナーとよく相談することをお勧めします。医療同意に関しては、前述の任意後見制度や、医療に関する意思表示のための公正証書なども検討できます。
専門家への相談の重要性
上記で挙げた対策は、いずれも専門的な知識が必要です。遺言書の作成、各種契約書の作成、税金に関する問題など、それぞれの分野の専門家(弁護士、税理士、ファイナンシャルプランナーなど)に相談することで、より正確で、ご自身の状況に合った最適な対策を講じることができます。
特にLGBTQ+カップルの抱える課題に理解のある専門家を探すことが、安心して相談を進める上では重要です。インターネット検索やNPO法人の紹介などを通じて、LGBTQ+フレンドリーな専門家を探してみることをお勧めします。
まとめ:安心して将来を迎えるために
パートナーシップ制度は、LGBTQ+カップルの権利向上に貢献する素晴らしい制度ですが、こと資産形成や相続に関しては、法的な婚姻とは異なる限界があります。しかし、その限界を知り、遺言書、死後事務委任契約、任意後見制度、各種財産に関する契約、生命保険の見直しといった具体的な対策を講じることで、パートナーとの関係を法的に保護し、安心して将来設計を進めることが可能です。
これらの手続きは一見複雑に思えるかもしれませんが、一つずつ理解し、必要に応じて専門家のサポートを得ることで、確実に進めることができます。この記事が、LGBTQ+カップルの皆様が、パートナーと共に安心して豊かな未来を築くための一歩となることを願っています。