パートナーとの将来のために:LGBTQ+カップルがiDeCo・NISAで始める非課税資産形成
はじめに:将来のための資産形成、第一歩を踏み出す
パートナーとの将来を考えたとき、避けて通れないテーマの一つが「お金」に関することではないでしょうか。日々の生活費だけでなく、住宅購入、育児、教育、老後の生活費など、さまざまなライフイベントにはまとまった資金が必要となります。
将来への漠然とした不安を抱える中で、資産形成に興味を持ちつつも、何から始めて良いか分からない、あるいは金融制度が複雑で分かりにくいと感じている方もいらっしゃるかもしれません。特にLGBTQ+カップルにおいては、法的な関係性や社会的な環境によって、情報収集や制度活用において特有の疑問や不安が生じる場合もあるかと存じます。
この記事では、資産形成の手段として多くの人に利用されているiDeCo(個人型確定拠出年金)とNISA(少額投資非課税制度)に焦点を当て、それぞれの制度の概要と、LGBTQ+カップルがこれらの制度を活用して安心して将来に向けた資産形成を進めるためのポイントについて解説します。非課税メリットを賢く活用し、パートナーとの未来をより豊かなものとするための一助となれば幸いです。
iDeCoとNISAとは?非課税メリットの理解
iDeCoとNISAは、国が国民の資産形成を後押しするために設けている「税制優遇制度」です。通常の投資では、運用によって得られた利益(運用益)に対して約20%の税金がかかりますが、これらの制度を利用することで、一定の範囲内でこの税金がかからなくなります。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは、自分で掛金を拠出し、自分で運用方法を選び、将来受け取る年金を作る私的年金制度です。主に老後の生活資金を準備することを目的としています。
- 最大のメリット:
- 掛金が全額所得控除される: 納めた掛金の分だけ、その年の所得税や住民税が軽減されます。これは大きな節税メリットです。
- 運用益が非課税: 運用によって得られた利益に税金がかかりません。
- 受け取り時も税制優遇: 受け取り方(年金または一時金)に応じて税制優遇があります。
- 注意点: 原則として60歳まで引き出すことができません。長期的な視点での利用が前提となります。
NISA(少額投資非課税制度)
NISAは、投資から得られる運用益(値上がり益や配当金など)が非課税になる制度です。特定の非課税投資枠が毎年設けられています。
- メリット:
- 運用益が非課税: iDeCoと同様に、運用益に税金がかかりません。
- 比較的自由な資金: iDeCoと異なり、いつでも売却して資金を引き出すことが可能です(非課税期間や投資枠には上限があります)。
- 注意点: 掛金の所得控除はありません。投資できる金額や期間には上限があります。2024年から新NISA制度が始まり、非課税投資枠が拡大されるなど、より使いやすくなっています。
LGBTQ+カップルがiDeCo・NISAを活用する上でのポイント
iDeCoやNISAは、基本的な制度はすべての人に共通ですが、LGBTQ+カップルが利用を検討する際には、特有の視点や考慮すべき点があります。
1. パートナーとの将来目標の共有と資金計画
まず、パートナーと率直に将来について話し合い、どのようなライフイベント(住宅購入、子育て、リタイアメントなど)がありそうか、それぞれにどのくらいの資金が必要になりそうかを具体的にイメージすることが重要です。
- それぞれの制度の役割分担: iDeCoは主に老後資金、NISAは比較的短期〜中長期の資金(例えば、数年後の引っ越し費用、教育資金の一部など)にも柔軟に利用できます。パートナーそれぞれの収入状況や資産状況、将来の目標に応じて、iDeCoとNISAをどのように組み合わせて活用するかを検討すると良いでしょう。
- 個人の資産としての管理: iDeCoもNISAも、口座はあくまで個人名義で開設・管理されます。パートナーの資金と合算して運用することはできません。それぞれが自身の名義で口座を持ち、運用を行う必要があります。これは、万が一関係性が変化した場合に資産の帰属が明確であるという側面もあります。
2. iDeCoの死亡一時金受取人指定について
iDeCoの加入者が亡くなった場合、積立金は「死亡一時金」として遺族に支払われます。この死亡一時金の受取人は、原則として国民年金法や厚生年金保険法に定められた遺族の範囲内で指定することになります。
この範囲は、一般的には配偶者(法律上の婚姻関係)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹などであり、多くの場合、法律上の婚姻関係にない同性のパートナーは、この法定の受取人の範囲に含まれません。
したがって、iDeCoの死亡一時金をパートナーに確実に受け取ってもらいたい場合、受取人に指定できる法定の遺族がいない場合を除き、原則としては直接指定することは難しいと考えられます。
もしパートナーにiDeCoの資産を引き継いでほしいと考える場合は、死亡一時金としてではなく、遺言書を作成し、遺贈(財産を贈与すること)の対象とするといった法的な手続きを検討する必要があります。この場合、遺贈を受けたパートナーには相続税や贈与税が課される可能性があります。
3. NISA口座内の資産の相続について
NISA口座内の資産は、口座名義人が亡くなった場合、通常の相続財産として扱われます。NISA口座自体を相続人が引き継ぐことはできません。口座内の有価証券(株式や投資信託など)は、相続が発生した時点の時価で評価され、相続財産に組み込まれて、相続人が証券会社に請求することで移管・換金される流れが一般的です。
NISA口座内の資産についても、法定相続人以外のパートナーに引き継いでもらいたい場合は、iDeCoと同様に遺言書による遺贈を検討することが有効です。この場合も、遺贈を受けたパートナーに相続税がかかる可能性があります。
4. 遺言書や公正証書等の活用
iDeCoの死亡一時金の受取人指定の制約や、NISA口座を含む資産全般をパートナーに確実に引き継ぐためには、iDeCo・NISAの活用と並行して、遺言書の作成を真剣に検討することをお勧めします。遺言書は、ご自身の死後に誰にどの財産をどのように引き継がせるかを法的に有効な形で示すための重要な手段です。
また、生前の意思決定や財産管理について、パートナーに代理権を与える任意後見制度や、財産管理、療養看護、死後の事務等についてパートナーに委任する委任契約、お互いの関係性を公的に証明する公正証書の作成なども、併せて検討することで、より包括的な安心を得ることができます。これらの制度は、資産形成だけでなく、医療同意や手続きの委任など、将来起こりうる様々な事態に備えるために役立ちます。
専門家への相談の重要性
iDeCoやNISAの制度そのものについては、各金融機関が情報を提供しています。しかし、LGBTQ+カップルが特有の課題(パートナーへの確実な資産承継、遺言書との組み合わせ、税金面での注意点など)も含めて、ご自身の状況に最適な資産形成・承継プランを立てるためには、専門家への相談が非常に有効です。
- ファイナンシャルプランナー(FP): ライフプラン全体を踏まえた資産形成のアドバイス、iDeCoやNISAの具体的な活用方法、他の金融商品との組み合わせなどについて相談できます。
- 弁護士・税理士: 遺言書の作成、相続・贈与に関する税金、家族信託や任意後見制度など、法制度に関わる専門的なアドバイスを得られます。
近年は、LGBTQ+フレンドリーであることを明示している専門家や金融機関も増えています。安心して相談できるパートナーを見つけることが、将来設計を進める上で大きな支えとなります。インターネット検索や、LGBTQ+関連のNPOなどが提供する専門家リストなどを参考に探してみることをお勧めします。
まとめ:非課税制度を活用し、安心してパートナーとの将来を築く
iDeCoとNISAは、非課税メリットを活用して効率的に資産を増やすことができる、非常に有用な制度です。これらの制度を理解し、ご自身の収入やライフプランに合わせて計画的に利用することで、将来の経済的な基盤をより強固にすることができます。
LGBTQ+カップルにとっては、特に資産の承継に関して、法的な制約から考慮すべき点が生じる場合があります。iDeCoの死亡一時金やNISA口座内の資産をパートナーに確実に引き継ぐためには、iDeCo・NISAの運用と並行して、遺言書の作成など、法的な手続きをしっかりと行うことが重要です。
将来への備えは、一人で抱え込まず、パートナーと話し合いながら、そして必要に応じて専門家の力を借りながら進めていくことが大切です。この記事で解説したiDeCo・NISAが、パートナーとの安心できる未来を築くための一歩となることを願っております。