安心してパートナーへ贈与するために:LGBTQ+カップルが活用できる贈与税非課税枠
はじめに
パートナーとの将来を共に考える上で、資産の形成や管理は非常に重要なテーマです。特に、法律上の婚姻関係にないLGBTQ+カップルの場合、もしもの時にパートナーへ円滑に資産を移転するためには、様々な制度や手続きについて事前に理解しておく必要があります。
その中でも、「生前贈与」は、ご自身の意思でパートナーに資産を渡すことができる有効な手段の一つです。しかし、「贈与には税金がかかるのではないか」といった不安から、検討を躊躇される方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、LGBTQ+カップルがパートナーへ生前贈与を行う際に知っておくべき贈与税の基本と、活用できる非課税枠について分かりやすく解説します。これらの情報を参考に、安心して生前贈与を検討するための一歩を踏み出していただければ幸いです。
贈与税の基本を知る
贈与税とは、個人から財産をもらったときにかかる税金です。財産を「あげる側」ではなく、「もらう側」(受贈者)に課税されます。
1年間(1月1日から12月31日まで)に贈与によって受け取った財産の合計額から、基礎控除額を差し引いた残りの金額に対して税率をかけて計算されます。
この「基礎控除」として、贈与税には年間110万円の非課税枠が設けられています。これは、1年間にもらった財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税はかからず、申告も不要となる制度です。年間110万円を超える贈与を受けた場合は、原則として贈与税の申告と納税が必要になります。
生前贈与を計画的に行う上で、この年間110万円の基礎控除は非常に重要なポイントとなります。
LGBTQ+カップルが活用できる可能性のある主な非課税枠
贈与税には、年間110万円の基礎控除の他に、特定の目的のために贈与が行われた場合に非課税となる特例措置がいくつか存在します。法律上の夫婦や親子間での適用を前提とした制度が多い中、LGBTQ+カップルが現状で活用できる可能性のある主な非課税枠についてご紹介します。
ただし、これらの制度は税法に基づいていますので、適用には厳格な要件があります。また、今後の法改正によって変更される可能性もあります。
年間110万円の基礎控除
改めてになりますが、年間110万円の基礎控除は、贈与を受ける人ごとに適用される非課税枠です。この枠内で計画的に贈与を行うことで、贈与税の負担なくパートナーへ資産を移すことができます。例えば、毎年110万円ずつパートナーに贈与を続ければ、10年間で1100万円を非課税で移転することが可能です。
これは、婚姻関係やパートナーシップ制度の有無にかかわらず適用される基本的な非課税枠です。
教育資金の一括贈与の非課税制度
30歳未満の方が、直系尊属(父母や祖父母など)から教育資金として贈与を受けた場合、最大1500万円まで非課税となる制度です。これは、子や孫への贈与を想定した制度であり、現状ではパートナーへの教育資金贈与には原則として適用されません。ご自身の甥姪など、一定の親族に教育資金を贈与する際に利用できる可能性があります。
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度
20歳以上50歳未満の方が、直系尊属(父母や祖父母など)から結婚・子育て資金として贈与を受けた場合、最大1000万円(結婚資金としては最大300万円)まで非課税となる制度です。これも教育資金の場合と同様、直系尊属からの贈与が前提であり、パートナーへの贈与には原則として適用されません。
住宅取得等資金の贈与の非課税措置
父母や祖父母などから、居住用の家屋の新築、取得または増改築等のための資金の贈与を受けた場合に、一定額まで非課税となる措置です。この制度も、直系尊属からの贈与であり、かつ受贈者が贈与者の子または孫であることが要件とされているため、パートナーへの贈与には原則として適用されません。
LGBTQ+カップルが生前贈与を検討する際の注意点
生前贈与は有効な手段ですが、特にLGBTQ+カップルが実行する際にはいくつか注意しておきたい点があります。
- 贈与契約書を作成する重要性: 金銭や不動産などを贈与した場合、後々のトラブルを防ぎ、また税務署から贈与の事実を証明するためにも、必ず贈与契約書を作成しましょう。口約束での贈与は、「本当に贈与があったのか」「いつ贈与されたのか」といった点で不明確になりがちです。
- 名義預金とみなされないために: パートナー名義の預金口座に資金を移した場合でも、その資金を管理しているのが贈与した側(あなた自身)であると、税務署から「名義預金」と判断され、贈与と認められないだけでなく、相続発生時に相続財産として扱われたり、後から高額な贈与税や延滞税が課されたりする可能性があります。贈与された財産は、もらった側(パートナー)が管理・使用できるようにすることが重要です。
- 税務署への申告: 1年間の贈与額が110万円の基礎控除を超える場合は、翌年の2月1日から3月15日までの間に、贈与税の申告書を税務署に提出し、納税する必要があります。申告を怠ると、無申告加算税や延滞税がかかることがあります。
専門家への相談を検討する
贈与税に関する制度や税額の計算は複雑な場合が多く、個々の状況によって最適な対策は異なります。また、法律上の婚姻関係を前提とした税制が多い中で、LGBTQ+カップルが利用できる制度は限られています。
ご自身の資産状況や将来の計画に合わせた具体的なアドバイスを得るためには、税理士やファイナンシャルプランナーなどの専門家への相談を検討することをおすすめします。特に、LGBTQ+カップルの事情に理解のある専門家であれば、安心して相談を進めることができるでしょう。サイトによっては、LGBTQ+フレンドリーな専門家を紹介している場合もありますので、活用してみてください。
まとめ
生前贈与は、LGBTQ+カップルがパートナーへご自身の意思で資産を移転し、将来の安心を築くための一つの有効な方法です。年間110万円の基礎控除を計画的に活用することで、贈与税の負担なく資産を移すことも可能です。
一方で、税法上の非課税措置の多くは法律上の夫婦や親子間を前提としており、LGBTQ+カップルが利用できる制度には限りがあるのが現状です。また、贈与の際には契約書の作成や名義預金とみなされないための注意が必要です。
ご自身の状況に合わせた最適な方法を選択し、安心して生前贈与を進めるためには、専門家の知識やアドバイスが非常に役立ちます。パートナーとしっかりと話し合い、専門家にも相談しながら、お二人の将来のために最善の資産計画を進めていってください。