もしもパートナーが認知症になったら?LGBTQ+カップルが知るべき資産凍結リスクと対策
もしもパートナーが認知症になったら?LGBTQ+カップルが知るべき資産凍結リスクと対策
大切なパートナーとの将来を考えるとき、健康な日々だけでなく、もしもの時の備えについても検討しておくことは重要です。特に、認知症などでパートナーの判断能力が低下してしまった場合、資産管理や医療判断はどうなるのだろうか、と不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
法的に家族と認められていない場合、パートナーの判断能力が低下すると、様々な手続きに法的な制約が生じることがあります。この記事では、LGBTQ+カップルがパートナーの認知症などに備える上で知っておくべき「資産凍結リスク」と、それに備えるための具体的な対策について解説します。
判断能力低下による「資産凍結リスク」とは
人が認知症などで判断能力を喪失、あるいは著しく低下した場合、自身の財産を管理したり、契約を結んだりすることが法的に困難になります。これは、本人を不利益から守るための仕組みですが、同時に、本人の財産が「凍結された」かのような状態を生むことがあります。
具体的には、次のようなことが難しくなります。
- 預貯金口座からの引き出し(本人の意思確認ができないため)
- 不動産の売却や賃貸契約
- 新しい資産運用契約
- 入院費や施設入居費用の支払い手続き
たとえ長年連れ添ったパートナーであっても、法的な権限がない場合、本人の財産に関するこれらの手続きを代わりに行うことは原則としてできません。特にLGBTQ+カップルの場合、法的な家族ではないため、戸籍上の家族に比べて、判断能力が低下したパートナーの財産管理に関与することがより難しくなるケースが考えられます。
もし、本人の財産からしか生活費や医療費、施設入居費を賄えない場合、これらの費用が支払えなくなるという重大な問題に直面する可能性があります。
認知症などに備えるための具体的な対策
パートナーの判断能力低下による資産凍結リスクに備えるためには、パートナーが元気なうちから対策を講じておくことが不可欠です。主な対策として、次のものが挙げられます。
1. 任意後見制度の活用
任意後見制度は、ご自身の判断能力が十分なうちに、将来、判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ決めておいた方(任意後見人)に、財産管理や生活、療養看護に関する事務(身上監護)について、希望する内容(任意後見契約の内容)を行ってもらう制度です。
- LGBTQ+カップルにとってのメリット: パートナーを任意後見人候補者として契約しておくことで、ご自身の財産管理や身上監護を最も信頼できるパートナーに任せることができます。契約内容を比較的自由に定めることができるため、ご自身の希望を反映させやすいという利点があります。
- 注意点: 任意後見契約は公正証書で作成することが法律で定められています。また、本人の判断能力が低下し任意後見が開始されると、家庭裁判所が選任する「任意後見監督人」が任意後見人を監督します。これにより、任意後見人が不正なく事務を行うことが担保されますが、任意後見監督人への報酬が発生します。
2. 家族信託の検討
家族信託は、ご自身の財産(委託者)を、信頼できるご家族等(受託者)に託し、特定の目的(例えば、ご自身の生活費や医療費に充てるためなど)に従って、その財産を管理・運用・処分してもらう仕組みです。
- LGBTQ+カップルにとってのメリット: パートナーを受託者とすることで、本人の判断能力が低下した後も、パートナーが本人の財産を使って、柔軟に生活費や医療費などを賄うことができるようになります。信託契約の内容によっては、本人が亡くなった後の財産の承継先についても定めておくことが可能です。
- 注意点: 家族信託の組成には専門的な知識が必要であり、契約書の作成や登記などの手続きが必要です。初期費用がかかる場合が多く、また、組成後も税務に関する考慮が必要です。パートナー以外の親族がいる場合は、親族との関係性や意向も考慮する必要があります。
3. 財産管理等委任契約の活用
ご自身の判断能力が十分なうちに、特定の財産(預金や不動産など)の管理や、特定の事務(公共料金の支払い、郵便物の受け取りなど)を、特定の相手(受任者)に委任する契約です。
- 任意後見制度との違い: 財産管理等委任契約は、原則として本人の判断能力がある間有効な契約です。本人の判断能力が低下した後も一定の効力を持つよう定めることも可能ですが、広範な財産管理や身上監護全般を任せるには、任意後見制度の方が適している場合が多いです。
- メリット: 任意後見契約と比べて、比較的簡易に契約を結ぶことができます。任意後見制度が開始するまでの間の財産管理をパートナーに任せたい場合などに有効な場合があります。
4. 医療同意・延命治療の意思表示
資産管理と合わせて、医療に関する意思表示も重要です。任意後見契約の「身上監護」の範囲に医療行為に関する同意権を含めることも考えられますが、より明確にするために、別途「医療代理委任契約」を結んだり、「リビングウィル(尊厳死宣言書)」を作成したりすることも有効です。パートナーシップ制度を利用している場合でも、医療同意については病院によって対応が分かれる場合があるため、別途法的な委任契約を結んでおくことで、パートナーが医療現場で適切な対応をできるよう備えることができます。
どの対策を選ぶか?検討すべきポイント
ご紹介した対策は、それぞれ特徴とメリット・デメリットがあります。どの対策がご自身とパートナーにとって最適かは、以下の点を考慮して検討する必要があります。
- 資産の規模や種類: 管理・処分を任せたい財産の種類(預金、不動産、株式など)やその規模によって、適した対策が異なります。
- パートナー以外の親族との関係性: 親族の有無や、親族とパートナーとの関係性によって、選択すべき対策や、対策を講じる上での注意点が異なります。家族信託などでは、親族の理解や協力が必要になる場合があります。
- 何をパートナーに任せたいか: 財産管理だけでなく、病院への入院手続きや費用の支払い、施設入居に関する契約、介護サービスの利用契約、そして医療行為に対する同意など、どこまでパートナーに任せたいのかを明確にすることが重要です。
- 費用の比較: 各制度を利用するための専門家費用や、任意後見監督人、信託受託者への報酬など、かかる費用も考慮して比較検討が必要です。
これらの検討を進めるにあたっては、専門家のサポートが不可欠です。
専門家への相談の重要性
弁護士、司法書士、税理士、ファイナンシャルプランナーといった専門家は、これらの制度や契約に関する知識と経験を持っています。ご自身の状況を正確に把握し、最適な対策を提案してもらうことができます。
特に、LGBTQ+カップルの資産管理や相続は、戸籍上の家族とは異なる配慮や知識が必要となる場合があります。LGBTQ+コミュニティへの理解がある、あるいはLGBTQ+フレンドリーであることを公表している専門家を探して相談することも、安心して手続きを進める上で有効な方法の一つです。
まとめ
もしもパートナーが認知症などにより判断能力が低下した場合、何の対策も講じていないと、パートナーの資産が凍結され、生活や医療に支障をきたすリスクがあります。しかし、任意後見制度や家族信託、財産管理等委任契約などを活用することで、このようなリスクに備え、大切なパートナーの将来を守ることができます。
どの対策を選択するかは、個々の状況や希望によって異なります。パートナーとよく話し合い、お互いの意向を確認した上で、専門家の助言を得ながら、最適な方法を検討し、できるだけ早期に準備を進めることが、将来の安心につながります。
この記事が、LGBTQ+カップルの皆様が、もしもの時の資産管理について考える一助となれば幸いです。