パートナーと築く資産

もしもの時に備える:LGBTQ+カップルが考えるデジタル資産の管理と承継

Tags: デジタル遺産, 資産管理, 相続, 終活, LGBTQカップル, もしもの備え

はじめに:私たちの日常に溶け込む「デジタル資産」

現代において、私たちの生活はデジタルサービスと密接に結びついています。オンライン銀行口座、証券口座、SNSアカウント、メール、クラウドに保存された写真や文書、オンラインストレージ、さらには仮想通貨やポイントサービスなども、今や私たちの「資産」と言えるでしょう。これらを総称して「デジタル資産」と呼ぶことがあります。

しかし、もし予期せぬ出来事で、ご自身のパートナーがこれらのデジタル資産にアクセスできなくなった場合、どのようなことが起こるでしょうか。財産に関わる手続きだけでなく、大切な思い出の写真が見られなくなったり、重要な連絡が滞ったりする可能性があります。

LGBTQ+カップルの場合、法的な関係性が確立されていないケースも多く、パートナーが法的な相続人として自動的にデジタル資産に関する手続きを行うことが難しいのが現状です。この記事では、LGBTQ+カップルが安心して将来を迎えるために、デジタル資産の管理とパートナーへの承継についてどのように考え、備えるべきかをご説明します。

デジタル資産とは具体的に何を指すのか?

デジタル資産は多岐にわたりますが、主なものを以下に挙げます。

これらのデジタル資産は、金銭的な価値を持つものもあれば、思い出や人間関係といった非金銭的な価値を持つものもあります。

なぜデジタル資産の備えが重要なのか?

デジタル資産の管理や承継は、従来の物理的な資産(不動産や預貯金など)とは異なる特性を持つため、特別な備えが必要です。

  1. 法的な相続の対象になりにくい: 多くのデジタル資産は、利用規約によって「アカウントは個人のものであり、譲渡・相続できない」と定められている場合があります。遺言書で「〇〇サービスのアカウントをパートナーに引き継ぐ」と書いても、サービス提供者がそれに応じるとは限りません。
  2. プライバシーとセキュリティ: アカウント情報やデータは非常に個人的な情報を含んでいます。安易なアクセスは、プライバシー侵害や情報漏洩のリスクを伴います。サービス提供者も、セキュリティの観点から、本人確認なしに第三者へ情報開示やアカウント移管を行うことはありません。
  3. 手続きの複雑さ: パートナーがアカウントにアクセスしようとしても、パスワードが分からなければ困難です。サービス提供者によっては、死亡証明書などの書類を提出しても、限られた情報しか開示されない、あるいは一切対応してもらえないこともあります。
  4. パートナーシップ制度だけでは不十分: パートナーシップ制度は自治体によって認められる関係性ですが、国の法律上の相続権は発生しません。そのため、パートナーシップ証明書があっても、多くのデジタル資産についてサービス提供者から法的な開示や手続きの権利を認められるわけではありません。

これらの理由から、パートナーがデジタル資産にアクセスしたり、適切に処理したりするためには、生前の準備が不可欠となります。

LGBTQ+カップルがデジタル資産のために取るべき具体的な対策

パートナーシップ制度があっても法的な相続権が認められない現状において、LGBTQ+カップルがデジタル資産について備えるためには、いくつかの方法を組み合わせることが有効です。

1. デジタル資産の「見える化」:リスト作成

まずは、ご自身がどのようなデジタル資産を持っているかを把握し、リストを作成することから始めましょう。

2. パスワード管理ツールの活用と情報共有

安全にパスワードを管理し、万が一の際にパートナーがアクセスできるように、パスワード管理ツールの利用を検討しましょう。多くのパスワード管理ツールには、緊急時に信頼できる人にパスワード情報を共有する機能があります。パートナーを「緊急連絡先」や「共有相手」として設定しておくことで、決められた手続きを経てパートナーがアクセスできるようになります。

ただし、ツールの使い方や共有方法については、パートナーとよく話し合い、お互いが理解しておくことが重要です。

3. 各オンラインサービスの「遺産管理機能」の確認と設定

主要なオンラインサービスの中には、利用者が死亡した場合に備えた機能を提供しているものがあります。

これらの機能を活用することで、ご自身の意思を反映させたり、パートナーが手続きを行いやすくしたりすることができます。利用しているサービスのヘルプページなどで、関連するポリシーや機能について確認しておきましょう。

4. 遺言書や関連契約での意思表示

法的にデジタル資産を直接承継させることは難しい場合が多いですが、遺言書や関連契約でご自身の意思を示すことは無駄ではありません。

これらの法的な文書は、ご自身の意思を明確にし、パートナーが困ったときに行動を起こすための重要な手助けとなります。

5. パートナーとの継続的な対話

最も大切なのは、パートナーと日頃からこれらの課題について話し合い、お互いのデジタル資産の状況や希望を共有しておくことです。どのデジタル資産が重要か、もしもの時にはどのようにしてほしいか、情報共有の方法はどうするかなど、具体的な内容を定期的に話し合う時間を持つことが、お互いの安心につながります。

専門家への相談のタイミング

デジタル資産の管理・承継について、どのように進めて良いか分からない場合や、遺言書、死後事務委任契約、任意後見契約といった法的な備えを検討する際には、専門家への相談が有効です。

デジタル資産に関する相談はまだ新しい分野であるため、対応できる専門家が限られている可能性もあります。LGBTQ+フレンドリーな対応をしているかどうかも含め、事前に相談内容や専門分野を確認して問い合わせることをお勧めします。

まとめ

デジタル資産は、私たちの財産であると同時に、大切な思い出や人間関係の記録でもあります。LGBTQ+カップルにとって、法的な関係性が認められないことによるデジタル資産の管理・承継の課題は、無視できない現実です。

しかし、悲観する必要はありません。デジタル資産のリスト化、パスワード管理ツールの活用、オンラインサービスの遺産管理機能設定、そして遺言書や関連契約の作成といった具体的な対策を講じることで、パートナーがもしもの時に困らないように備えることは十分に可能です。

何よりも大切なのは、パートナーとこれらの課題についてオープンに話し合い、お互いの状況を理解し、一緒に準備を進めることです。この記事が、お二人の安心できる将来設計のための第一歩となれば幸いです。必要に応じて専門家の力を借りながら、お二人に最適な備えを進めていきましょう。