もしもの時に慌てない:LGBTQ+カップルのためのパートナー死後手続き
パートナーとの穏やかな日常が、いつか終わりを迎えることは避けられません。深い悲しみの中で、残されたパートナーを待っているのが、さまざまな手続きです。特にLGBTQ+カップルの場合、法的な婚姻関係にないことが多い現状では、異性間の夫婦とは異なる、あるいはより複雑な手続きに直面する可能性があります。もしもの時に慌てず、大切なパートナーの最後を安心して見送るために、どのような手続きがあり、どのような準備ができるのかを知っておくことは、非常に重要です。
この記事では、LGBTQ+カップルがパートナーの死後に直面する可能性のある主な手続きや、事前にできる備えについて解説します。
パートナーの死後に発生する主な手続き
パートナーが亡くなった後、まず必要となるのは、行政や金融機関、保険会社など、多岐にわたる方面への連絡や届け出です。主な手続きには以下のようなものがあります。
- 死亡診断書の受け取りと死亡届の提出: 医師から死亡診断書を受け取り、役所に死亡届を提出します。これにより、戸籍に死亡の事実が記載されます。
- 火葬または埋葬の手続き: 死亡届と同時に火葬許可証や埋葬許可証の交付申請を行います。
- 年金や健康保険の資格喪失手続き: 故人が加入していた年金や健康保険について、資格喪失の手続きを行います。遺族年金や埋葬料(費)の申請もここに含まれます。
- 公共料金や通信サービスの解約・名義変更: 電気、ガス、水道、電話、インターネットなどの契約について、解約や名義変更の手続きが必要です。
- 金融機関の口座凍結と払い戻し・名義変更: 故人名義の預貯金口座は、死亡の事実が伝わると凍結されることが一般的です。葬儀費用の支払いなど、一時的に必要となる資金の引き出しや、その後の名義変更・払い戻しの手続きが必要になります。
- 生命保険の保険金請求: 故人が生命保険に加入しており、自身が受取人に指定されている場合は、保険会社に保険金請求の手続きを行います。
- 不動産や自動車の名義変更: 故人名義の不動産や自動車がある場合、相続や遺贈、またはその他の原因により、名義変更の手続きが必要になります。
- 相続手続き: 故人の財産(遺産)を誰がどのように引き継ぐかに関する手続きです。遺言書の有無や、相続人の確定、遺産分割協議など、さまざまなプロセスが含まれます。
LGBTQ+カップルが直面しやすい課題
これらの手続きは、法的な婚姻関係にある夫婦であれば比較的スムーズに進むことが多い一方、LGBTQ+カップルの場合はいくつかの課題に直面する可能性があります。
- 法的な相続権がない: 法的な婚姻関係にない場合、パートナーは法定相続人には含まれません。これは、遺言書がない限り、パートナーの財産を法的に引き継ぐ権利がないことを意味します。
- 手続きにおける関係性の証明: 役所や金融機関、病院などで、故人との関係性を証明する際に困難が生じる場合があります。パートナーシップ証明書が一定の効力を持つ場面もありますが、法的な婚姻関係と同等の効力を持つわけではありません。
- 共同名義資産の取り扱い: 不動産などを共同名義で購入していた場合でも、故人持分の相続には上記と同様の課題が発生します。
- 医療同意や死後事務: 故人の終末期医療に関する同意や、死後のさまざまな手続き(葬儀、埋葬、行政手続きなど)について、法的な権限がないために対応できない、あるいは手続きが複雑になる可能性があります。
もしもの時に慌てないための事前の備え
これらの課題を乗り越え、残されたパートナーが安心して故人を見送り、その後の生活を立て直せるようにするためには、生前からの「事前の備え」が非常に重要です。
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遺言書の作成: 遺言書を作成することで、法定相続人ではないパートナーにも財産を遺すことができます。特に、全ての財産をパートナーに遺したい場合は、「包括遺贈(いかついぞう)」または特定の財産を遺す「特定遺贈(とくていいぞう)」といった形で、パートナーを受遺者(じゅいしゃ)として指定することが可能です。遺言書は、法的に有効な形式(公正証書遺言、自筆証書遺言など)で作成する必要があります。公正証書遺言は公証役場で作成するため手間はかかりますが、最も確実性が高い方法とされています。
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死後事務委任契約の締結: 自身が亡くなった後、残されたパートナーに葬儀の手配や埋葬、行政手続き、電気・ガス・水道などの契約解除、家賃や医療費の支払いといった、さまざまな手続きを委任するための契約です。「死後事務委任契約(しごじむいにんけいやく)」を締結することで、法的な権限のないパートナーでもこれらの手続きを円滑に進めることが可能になります。この契約も公正証書で作成することが推奨されます。
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任意後見契約の締結: 将来、自身の判断能力が衰えてしまった場合に備え、生活や財産管理に関する事務をパートナーに委任するための契約です。「任意後見制度(にんいこうけんせいど)」は、本人の意思能力があるうちに任意後見契約を結んでおくことで、判断能力が不十分になった後、契約の効力が生じ、パートナーが後見人として財産管理などを行えるようにする制度です。これも公正証書で作成します。死後事務委任契約と合わせて検討されることが多い契約です。
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生命保険の活用: 自身に万が一のことがあった際に、パートナーに経済的な保障を遺す手段として有効です。生命保険の死亡保険金の受取人にパートナーを指定することで、法的な相続とは別に、保険金をパートナーに遺すことができます。保険会社によっては、事実婚や同性パートナーを受取人に指定するために、一定の条件や書類(公正証書、パートナーシップ証明書など)が必要となる場合がありますので、事前に確認が必要です。
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財産管理に関する取り決めと共有: 互いの財産状況(預貯金口座、証券口座、不動産、保険、借入金など)や、重要な契約書類、ID・パスワードなどを共有し、リスト化しておくと、もしもの際にパートナーが手続きを進めやすくなります。共有名義の資産についても、万が一の場合の取り決め(例えば、遺言書でパートナーに遺贈するなど)をしておくことが重要です。
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パートナーシップ制度の利用: 自治体によっては、パートナーシップ制度が導入されています。これにより法的な婚姻とは異なり相続権は発生しませんが、関係性の証明に役立ち、賃貸住宅の契約や病院での面会、一部の行政サービスなどで活用できる場合があります。これらの証明書があることで、死後の手続きの一部が円滑に進む可能性も期待できます。
専門家への相談を検討する
上記のような事前の備えは、専門的な知識が必要となる場合が多くあります。遺言書の作成支援、死後事務委任契約や任意後見契約の公正証書作成、相続に関する手続きなどについては、弁護士、司法書士、行政書士、税理士などの専門家に相談することを検討しましょう。
特にLGBTQ+カップルの事情に理解のある専門家を選ぶことが、安心して相談を進めるための重要なポイントです。インターネット検索や、LGBTQ+関連の支援団体が紹介している専門家リストなどを参考に探してみることをお勧めします。
まとめ:大切なパートナーのために、今できること
パートナーを失うという経験は、計り知れない悲しみと困難を伴います。その中で、複雑な手続きに追われることは、残されたパートナーにとって大きな負担となります。法的な保障が十分ではない現状だからこそ、LGBTQ+カップルにとっては、お互いを守るための事前の準備が、より一層重要になると言えます。
遺言書の作成、死後事務委任契約、任意後見契約、生命保険の見直しなど、今からできる備えについて、パートナーと話し合い、必要に応じて専門家の力を借りながら進めていくことが、お互いの将来に対する責任であり、深い愛情の証となるでしょう。この記事が、皆様がパートナーと安心して将来を考えるための一助となれば幸いです。