LGBTQ+カップルが「共同名義」で資産を持つ場合の注意点:購入から相続まで
はじめに:共同名義という選択肢とその魅力
LGBTQ+カップルが一緒に生活を築き、将来を考える上で、不動産などの大きな資産を「共同名義」で所有するという選択肢は自然な流れかもしれません。共に資金を出し合い、共有の財産として持つことは、パートナーシップの証であり、経済的な基盤を共に築く実感をもたらします。
しかし、共同名義には魅力がある一方で、特に法的な関係性が限定されることの多いLGBTQ+カップルにとっては、特有の注意点やリスクが存在します。この記事では、共同名義で資産を持つ場合に考慮すべきポイントを、購入時から将来の相続に至るまで、具体的に解説します。
共同名義資産の種類と基本的な考え方
「共同名義」とは、一つの資産を複数の人が共同で所有することを指します。最も代表的なのは不動産ですが、預貯金や株式などの金融資産を共同名義とすることも理論上は可能です(ただし、金融機関によっては手続きが煩雑であったり、対応していなかったりする場合もあります)。
共同名義で所有する場合、各所有者は「持分(もちぶん)」を持ちます。持分とは、資産全体に対する各所有者の所有割合のことです。例えば、不動産をパートナーと折半で購入した場合、それぞれの持分は2分の1となります。持分は、購入時の出資割合に応じて定めるのが一般的です。
共同名義のメリットとしては、以下の点が挙げられます。
- 資金負担の軽減: 一人で全てを負担することなく、共同で資金を出し合うことができます。
- 所有の実感: 共に資産を所有することで、パートナーシップにおける経済的な結びつきをより強く感じられます。
一方で、デメリットや注意点も存在します。
- 意思決定の複雑さ: 売却、大規模な修繕、賃貸に出すなど、資産に関する重要な決定を行う際には、原則として共同名義人全員の同意が必要になります。
- 共有状態の解消の難しさ: 関係性が変化した場合などに、共有状態を解消することが容易ではない場合があります。
LGBTQ+カップルが共同名義で資産を持つ際の特有の課題
多くのLGBTQ+カップルにとって、現行の法制度では婚姻関係と同様の法的な権利が自動的に認められない状況があります。このような状況下で共同名義の資産を持つ場合、いくつかの特有の課題に直面する可能性があります。
1. 相続における課題
日本の現行法では、婚姻関係にないパートナーは法定相続人にはなりません。これは、たとえ共同名義で資産を持っていても変わりません。例えば、パートナーと共同名義で購入した不動産について考えてみましょう。パートナーが亡くなった場合、その持分は原則として、パートナーの法定相続人(親、兄弟姉妹など)に引き継がれます。
- 残されたパートナーの立場: 亡くなったパートナーの持分を、そのご家族と共有することになります。ご家族との関係性によっては、その後の資産の管理や処分が困難になる可能性があります。最悪の場合、ご家族から持分の買い取りや売却を求められる可能性もゼロではありません。
- パートナーシップ制度の影響: パートナーシップ制度は、自治体が独自に設けているものであり、法律上の婚姻とは異なります。そのため、パートナーシップ証明があっても、現時点では多くのケースで法定相続人となることは認められていません(ただし、一部の自治体では、証明書が相続において考慮される可能性を示唆している例もありますが、法的な効力は限定的です)。
2. 財産管理や意思決定における課題
パートナーが病気などで意思表示ができなくなった場合、共同名義の資産に関する手続き(例:売却、抵当権設定)を行うことが困難になる場合があります。法的な権限がないため、単独で手続きを進めることができず、資産が「凍結」されてしまうリスクがあります。
共同名義資産のリスクを軽減するための対策
LGBTQ+カップルが共同名義で安心して資産を所有し続けるためには、事前の対策が非常に重要です。以下にいくつかの方法を挙げます。
1. 遺言書の作成
最も基本的かつ重要な対策の一つです。共同名義人がそれぞれ遺言書を作成し、「自身の持分をパートナーに遺贈する」旨を明確に記しておくことで、亡くなったパートナーの持分を遺されたパートナーが引き継ぐ意思を示すことができます。
- 包括遺贈と特定遺贈: 遺言による財産の引き継ぎには、「包括遺贈(財産の全てまたは割合を指定して渡す)」と「特定遺贈(特定の財産を渡す)」があります。共同名義の持分をパートナーに渡したい場合は、「私の有する〇〇(資産名)の持分全てを、パートナーの〇〇に遺贈する」といった形で具体的に記述する必要があります。
- 遺留分への配慮: 法定相続人には「遺留分(いりゅうぶん)」といって、最低限相続できる財産の割合が法律で定められています。遺言書の内容が遺留分を侵害している場合、遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。遺言書を作成する際には、遺留分についても考慮し、必要であれば専門家(弁護士等)に相談することをお勧めします。
- 公正証書遺言の活用: より確実性を高めるためには、公正証書遺言を作成するのが良いでしょう。公証人が関与するため、形式の不備で無効になるリスクが低く、原本が公証役場に保管されるため紛失の心配もありません。
2. 死因贈与契約
共同名義人が生存中に、「自分が死亡した場合に、自分の持分をパートナーに贈与する」という契約をパートナーとの間で結んでおく方法です。遺言と同様の効果が期待できますが、契約であるため、遺言と異なり相手の承諾が必要です。この契約も、公正証書として作成することで明確さと証拠能力が高まります。
3. 財産管理等委任契約と任意後見契約
パートナーが病気などで判断能力を失った場合に備える対策です。
- 財産管理等委任契約: 元気なうちにパートナーとの間で、自身の財産管理や生活に関する事務(公共料金の支払い、不動産の管理など)を委任する契約を結んでおくことができます。これにより、パートナーが代わりに共同名義資産の管理の一部を行うことができるようになります。
- 任意後見契約: 将来、判断能力が不十分になった場合に備え、あらかじめ自分で選んだ後見人(この場合はパートナー)に、自分の生活、療養看護、財産管理に関する事務について代理権を与える契約です。公正証書で作成する必要があります。これらの契約を締結しておくことで、パートナーが不在となる状況での資産管理の停滞を防ぐことができます。
4. 共同名義の解消(単独名義への変更)
将来的なリスクを避けるために、共同名義を解消し、どちらか一方の単独名義とする、あるいは第三者へ売却して共有状態を終わらせるという選択肢もあります。ただし、名義変更には贈与税や不動産取得税、登録免許税などの税金が発生する可能性があるため、税理士に相談するなど慎重な検討が必要です。
専門家への相談の重要性
これらの対策は、個々の状況(資産の内容、金額、パートナーとの関係性、ご家族の状況など)によって最適な方法が異なります。また、法制度や税制は変更される可能性もあります。
そのため、共同名義で資産を持つことを検討する際、または既に共同名義資産をお持ちの場合は、必ず専門家(弁護士、税理士、ファイナンシャルプランナーなど)に相談することをお勧めします。特に、LGBTQ+カップルの資産形成や相続問題に理解のある専門家を見つけることが、安心して将来設計を進めるための重要な一歩となります。
専門家は、あなたの状況に合わせて、共同名義のメリット・デメリット、必要な対策(遺言、契約など)、発生しうる税金などについて具体的なアドバイスを提供してくれます。
まとめ:安心して共同名義資産を持つために
LGBTQ+カップルが共同名義で資産を持つことは、パートナーとの絆を深める素晴らしい選択肢の一つです。しかし、法的な課題が存在する現状では、将来起こりうるリスクに対して、事前の準備と対策が不可欠です。
遺言書の作成、死因贈与契約、財産管理や任意後見契約などを検討し、必要に応じて共同名義の解消も含めた選択肢を比較検討することが重要です。そして何よりも、信頼できる専門家に相談し、正確な情報とアドバイスを得ながら、一つずつ計画的に進めていくことが、将来の安心に繋がります。
この情報が、あなたがパートナーと共に安心して資産を築き、守っていくための一助となれば幸いです。