将来のために:LGBTQ+カップルがパートナーと共有する資産をリスト化するガイド
はじめに:資産を「見える化」することの重要性
パートナーとの将来を共に考え、資産形成や相続の準備を始めるにあたり、まず何から手をつければ良いのか迷われる方もいらっしゃるかもしれません。どこにどのような資産がどれくらいあるのか、そしてそれはどちらの名義になっているのか。これらの情報を正確に把握することは、安心できる将来設計の土台となります。
特に、法的な関係性が多様なLGBTQ+カップルにおいては、お互いの資産状況を透明にし、共有資産やそれぞれの名義の資産をリスト化しておくことが、もしもの時や相続に関する手続きを円滑に進める上で非常に重要になります。このリストは、単なる財産目録ではなく、お二人の歩みを可視化し、未来への計画を具体的にするための第一歩となるものです。
この記事では、LGBTQ+カップルがパートナーと共有する資産をどのように把握し、リスト化して管理すれば良いのかについて、具体的なステップと併せてご紹介します。
なぜ資産リストの作成が必要なのか
資産リストを作成し、パートナーと共有することには、以下のような多くのメリットがあります。
- 現状把握と目標設定の具体化: お二人の資産全体を一覧で把握することで、現在の経済状況が明確になります。これにより、マイホーム購入、子育て資金、老後資金など、将来の目標に向けた具体的な資産形成計画を立てやすくなります。
- もしもの時の安心: パートナーに万一のことがあった場合、残された側が資産の場所や内容を把握できていないと、手続きが非常に煩雑になります。特に法的な相続権がない場合、名義が異なる資産の情報開示を受けること自体が難しいケースもあります。リストがあれば、このような状況でも冷静に対応するための大きな助けとなります。
- 相続・贈与の準備: 相続や生前贈与を検討する際に、どのような資産があるかを正確に把握していることが出発点となります。遺言書の作成や、家族信託などの法的な手続きを進める上でも、資産リストは不可欠な資料となります。
- パートナー間の信頼関係の構築: お互いの資産状況をオープンにすることは、パートナー間の経済的な信頼関係を深めます。共に将来を築いていく上での安心感につながります。
- 専門家への相談効率化: 弁護士、税理士、ファイナンシャルプランナーといった専門家に相談する際に、整理された資産リストがあれば、相談内容をスムーズに伝えることができ、より的確なアドバイスを受けやすくなります。
リスト化すべき資産の種類
資産リストには、お二人に関わるあらゆる資産を含めることが理想的です。具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 預貯金: 普通預金、定期預金、外貨預金など。銀行名、支店名、口座番号、名義人、金額を記載します。
- 有価証券: 株式、投資信託、債券など。証券会社名、口座番号、銘柄、数量、評価額、名義人を記載します。NISAやiDeCoの状況も含めます。
- 不動産: 自宅、投資用不動産など。所在地、登記名義人(共同名義の場合は持分)、固定資産税評価額、住宅ローン残高などを記載します。共同名義に関する注意点は別途詳細な検討が必要です。
- 保険: 生命保険、医療保険、学資保険、個人年金保険など。保険会社名、証券番号、被保険者、受取人、保険金額、解約返戻金などを記載します。生命保険の受取人指定については、LGBTQ+カップルが検討すべき重要なポイントがあります。
- 退職金・年金: 勤務先の退職金制度、企業年金、個人年金、公的年金の見込み額など。
- 自動車、その他動産: 自動車の所有者、売却時の見積もり額などが考えられます。
- デジタル資産: オンライン口座、仮想通貨、ポイント、デジタルコンテンツの権利など。アカウント情報やパスワード管理に関する取り決めも重要です。
- 貴金属、美術品、骨董品など: 価値の高いものがあれば含めます。
- 負債: 住宅ローン、カードローン、奨学金ローンなど、お二人に関わる借入金もリストに含めておくと、全体の状況把握に役立ちます。借入先、名義人、残高などを記載します。
これらの資産について、「誰の名義になっているか」を明確にすることが特に重要です。たとえパートナーシップ制度を利用していても、法的な名義や相続権は直ちに変更されるわけではないため、この点の把握はトラブルを防ぐ上で不可欠です。
資産リスト作成の具体的な方法と含めるべき情報
資産リストを作成するためのツールは様々ですが、お二人が共にアクセスしやすく、更新しやすい方法を選ぶのが良いでしょう。
- スプレッドシート(Excel, Google Sheetsなど): パソコンでの管理が得意な方におすすめです。項目ごとに整理しやすく、計算機能も利用できます。
- ノートや手帳: アナログな方法ですが、手軽に始められます。重要な情報が散逸しないよう、一箇所にまとめることが大切です。
- 資産管理アプリ: 最近では、複数の金融機関口座を連携させて自動で資産を把握できるアプリもあります。セキュリティには十分に注意が必要です。
いずれの方法を選ぶにしても、リストには以下の情報を少なくとも含めるようにしましょう。
- 資産の種類: (例: 普通預金、投資信託、生命保険、不動産など)
- 具体的な内容: (例: ○○銀行 △△支店、○○証券 □□ファンド、○○生命 保険名称、住所など)
- 金融機関/所在地: (例: ○○銀行、△△証券、○○生命保険株式会社、東京都〜)
- 口座番号/証券番号/証券番号など: (アクセスに必要な情報の一部を記載。ただし、パスワードなど直接的なアクセス情報は含めず、別途安全な方法で管理します。)
- 名義人: (例: パートナーA、パートナーB、共同名義)
- 金額/評価額: (現在の残高や評価額。定期的に更新が必要です。)
- 備考: (契約日、満期日、受取人情報、重要な連絡事項など)
リストの管理と共有:誰とどのように情報を共有するか
作成した資産リストは、作成して終わりではありません。定期的な見直しと更新が必要です。また、最も重要なのは、この情報をパートナーと「共有する」ことです。
- パートナーとの共有: リストをいつでもお互いが見られる場所に保管することが大切です。クラウドストレージに保存したり、印刷してファイルに綴じたり、方法は問いません。重要なのは、お二人がアクセス方法を理解していることです。リストの内容について、定期的にお二人で話し合う機会を設けることも重要です。
- 信頼できる第三者との共有(検討): 万が一、お二人同時に判断能力を失うような事態が発生した場合に備え、信頼できるご家族や友人、あるいは専門家(弁護士や税理士など)にリストの存在と保管場所を伝えておくことも選択肢の一つです。ただし、これは非常にプライベートな情報であるため、共有する相手は慎重に選び、内容の一部に留めるなどの工夫が必要かもしれません。任意後見制度や死後事務委任契約などを利用して、特定の専門家に情報管理や手続きを託す方法もあります。
資産リスト作成は次のステップへの入口
資産リストを作成し、お二人の資産状況が「見える化」できれば、次のステップへ進む準備が整います。
- 具体的な資産形成計画の策定: リストで把握した現状に基づき、無理のない範囲でどのような方法(積立投資、保険加入など)で資産を増やしていくかを具体的に計画します。
- 遺言書、公正証書などの検討: パートナーシップ制度だけではカバーできない法的な側面について、遺言書の作成(パートナーへの遺贈)、お互いの医療同意や財産管理に関する公正証書の作成などを具体的に検討することができます。リストは、これらの手続きの際に弁護士などに提出する資料としても役立ちます。
- 専門家への相談: より複雑な資産構成の場合や、相続・税金に関する不安がある場合は、専門家(弁護士、税理士、ファイナンシャルプランナーなど)に相談することを検討しましょう。LGBTQ+カップルの課題に理解のある専門家を探すことも可能です。リストがあれば、相談もスムーズに進みます。
まとめ:安心のための第一歩を踏み出す
LGBTQ+カップルがパートナーと安心して将来を築いていくためには、まずお二人の資産全体を正確に把握し、「見える化」することが非常に重要です。資産リストの作成は、一見地道な作業に思えるかもしれませんが、もしもの時の不安を軽減し、お二人の将来の目標達成に向けた具体的な計画を立てるための、確かな第一歩となります。
ぜひ、パートナーと話し合いながら、お二人にとって最も負担の少ない方法で資産リストの作成を始めてみてください。このリストを基に、将来について前向きに語り合い、必要な手続きや専門家への相談へと繋げていくことで、より安心してパートナーシップを育んでいくことができるでしょう。