LGBTQ+カップルのための医療保険・がん保険活用ガイド:もしもの病気・怪我と生活費への備え
はじめに:安心してパートナーと歩むために「もしも」に備える
人生には予測できない様々な出来事が起こり得ます。病気や怪我による入院や手術、あるいは大切なパートナーとの突然の別れなど、「もしも」の事態に直面した際、経済的な不安は大きな負担となり得ます。特にLGBTQ+カップルの場合、法的な関係性が十分に認められていない状況においては、公的な社会保障制度によるサポートが限定的となる場合があります。
医療費の自己負担や、パートナーを亡くした後の生活費の問題は、パートナーと安心して将来を歩む上で避けて通れない重要な課題です。この記事では、LGBTQ+カップルが「もしも」の医療費や、パートナーに先立たれた後の生活費に備えるための具体的な方法として、医療保険やがん保険の活用、そして遺族年金が得られない場合の代替策について解説します。
医療保険・がん保険で備える「もしも」の医療費
病気や怪我による入院・手術が必要になった場合、健康保険が適用される医療費には自己負担が発生します。さらに、先進医療や差額ベッド代など、健康保険が適用されない費用も発生する可能性があります。こうした医療費負担を軽減するために有効なのが、医療保険やがん保険です。
医療保険の仕組みと活用
医療保険は、病気や怪我で入院・手術をした際に、給付金が支払われる保険です。主な給付金には、入院日数に応じて支払われる「入院給付金」、所定の手術を受けた際に支払われる「手術給付金」などがあります。
医療保険を活用することで、突然の入院や手術による予期せぬ医療費の支出に備えることができます。給付金の額や支払い条件は保険商品によって異なりますので、ご自身の年齢や健康状態、希望する保障内容に合わせて検討することが重要です。
がん保険の仕組みと活用
がん保険は、日本人の2人に1人がかかると言われる「がん」に特化した保険です。がんと診断された際にまとまった金額が支払われる「診断給付金」を中心に、手術、入院、通院、抗がん剤治療、放射線治療など、がんの治療にかかる様々な費用に対応する給付金が用意されています。
がんは治療期間が長期にわたることが多く、医療費負担が高額になるケースも少なくありません。がん保険に加入しておくことで、治療に専念するための経済的な安心を得ることができます。
LGBTQ+カップルが保険を選ぶ際のポイント
医療保険やがん保険を選ぶ際、LGBTQ+カップル特有の考慮事項がいくつかあります。
- 受取人指定: 保険金の受取人は、原則として配偶者や二親等以内の親族を指定することが一般的です。事実婚やパートナーシップ関係の場合、パートナーを受取人に指定できない、あるいは手続きが複雑になる保険会社も存在します。保険加入を検討する際は、パートナーを受取人に指定できるか、どのような手続きが必要か(例:パートナーシップ証明書の提出など)を必ず確認しましょう。指定が難しい場合は、ご自身を受取人とし、給付金をパートナーの医療費や生活費に充てる方法を検討することも考えられます。
- 給付金請求の手続き: ご自身が入院・手術等で手続きが困難になった場合に備え、パートナーが代理で給付金請求手続きを行えるように、事前に保険会社に確認したり、委任状などを用意したりしておくと安心です。任意後見制度の利用なども含めて検討できます。(任意後見制度については、別の記事で詳しく解説しています。)
- 保険会社の対応: 保険会社によっては、LGBTQ+に関する理解が進んでおり、手続き面での配慮や、LGBTQ+の顧客に寄り添った相談対応を行っている場合があります。相談しやすい保険会社を選ぶことも大切です。
医療費そのものへの備え:保険以外の選択肢
医療保険やがん保険に加え、公的な制度やその他の方法でも医療費への備えが可能です。
- 高額療養費制度: 公的医療保険には、医療費の家計負担が重くならないよう、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1ヶ月(同じ月内)で上限額を超えた場合に、その超えた額が払い戻される「高額療養費制度」があります。自己負担には上限があることを知っておくと、医療費への過度な不安を軽減できます。ただし、この制度は世帯の所得に基づいて計算されるため、パートナーの所得と合算されない(生計を共にしていると認められない場合など)可能性がある点には留意が必要です。
- 傷病手当金: 会社員などが病気や怪我のために会社を休み、十分な給与が受けられない場合に、健康保険から支給される手当金です。連続する3日間を含み4日以上仕事を休んだ場合に支給対象となります。自営業やフリーランスの場合は、国民健康保険にはこの制度はありません。
- 貯蓄: 医療費への備えとして、緊急予備資金としての貯蓄は非常に重要です。保険と組み合わせて、自己負担額や高額療養費制度を利用してもかかる費用、入院中の雑費などに備えましょう。
パートナーを亡くした後の生活費への備え:遺族年金代替策
公的な年金制度には、一家の働き手を亡くした遺族の生活を保障するための「遺族年金」があります。しかし、現行制度では、遺族年金の受給対象は法律上の配偶者や所定の親族に限定されており、事実婚や同性パートナーは原則として遺族年金の対象外です。
これは、LGBTQ+カップルがパートナーを亡くした際に、公的なサポートなしに生活費を全て自己負担で賄わなければならない可能性があることを意味します。そのため、遺族年金が得られないことを見越した、事前の備えが極めて重要になります。
遺族年金代替策としての備え
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生命保険の活用: パートナーの死亡時に保険金が支払われる生命保険は、遺族年金の代替として最も有効な手段の一つです。パートナーを受取人に指定できる定期保険や終身保険に加入することで、万一の際にパートナーがまとまった保険金を受け取り、当面の生活費やその後の生活設計のための資金とすることができます。(生命保険については、別の記事でも詳しく解説しています。)
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資産形成: iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)といった非課税制度を活用した資産形成や、計画的な貯蓄は、将来の生活費を確保するための長期的な備えとなります。お二人のライフプランに合わせて、着実に資産を増やしていく計画を立てましょう。(iDeCo・NISAについては、別の記事でも詳しく解説しています。)
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公正証書や遺言書による財産承継: 遺族年金がない場合でも、パートナーが生前に築いた財産を確実に引き継ぐことができれば、残されたパートナーの生活の支えとなります。公正証書や遺言書を作成することで、パートナーへの財産の贈与や遺贈の意思を明確にし、法的な効力を持たせることができます。(公正証書、遺言書については、それぞれ別の記事で詳しく解説しています。)
これらの対策を組み合わせることで、パートナーが亡くなった後の生活費に関する不安を軽減し、安心して将来を迎えられるよう準備を進めることができます。
まとめ:パートナーと安心して将来を迎えるために
LGBTQ+カップルが、もしもの病気・怪我による医療費や、パートナーに先立たれた後の生活費に関する不安を解消するためには、医療保険やがん保険を適切に活用し、さらに公的制度の知識を得た上で、遺族年金が得られないことを見越した計画的な備えを行うことが不可欠です。
保険商品の内容は多岐にわたりますし、ご自身の状況に最適な備えを一人で判断するのは難しい場合もあります。このような時は、ファイナンシャルプランナー(FP)などの専門家にご相談いただくことをお勧めします。LGBTQ+カップルの資産形成や相続、保険に詳しい専門家も増えています。専門家の知見を活用することで、お二人にとって最適な備えの方法を見つけることができるでしょう。
大切なパートナーとの未来のために、今からできる準備を一緒に考えてみてはいかがでしょうか。