パートナーとの資産を「見える化」し、守り育てる:LGBTQ+カップルのための実践的な管理計画
はじめに:パートナーとの資産について考える第一歩
将来の生活や、もしもの時に備える上で、ご自身の、そしてパートナーとの資産について具体的に考えることは非常に重要です。特にLGBTQ+カップルにおいては、法的な関係性による制約や、異性間カップルとは異なる考慮事項があるため、計画的な資産形成と管理が安心な未来を築くための鍵となります。
しかし、「資産について考える」と言っても、何から始めれば良いのか分からない、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。預貯金、保険、iDeCoやNISAといった投資、不動産など、様々な形がある資産をどう把握し、どう管理していけば良いのでしょうか。
この記事では、LGBTQ+カップルがパートナーとの資産を「見える化」し、将来の目標に向けて資産を「守り、育てる」ための実践的な管理計画を立てるステップをご紹介します。漠然とした不安を解消し、パートナーと共に一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。
ステップ1:資産の「見える化」を始める
資産管理計画の最初のステップは、まず現状を正確に把握することです。ご自身とパートナー、それぞれが現在どのような資産を持ち、どのような負債を抱えているのかを全てリストアップする「見える化」作業を行います。
なぜ見える化が必要なのでしょうか。それは、資産全体を把握することで、現在の家計の状況や資産構成が明らかになり、将来の目標達成に向けた課題や必要な対策が見えてくるからです。また、パートナーと互いの資産状況を共有することは、お二人の将来計画を具体的に話し合う上での重要な土台となります。
見える化の対象となる主な資産・負債の例を挙げます。
- 資産:
- 預貯金(普通預金、定期預金など)
- 有価証券(株式、投資信託、債券など)
- 保険(終身保険の解約返戻金など貯蓄性のあるもの)
- 退職金・年金(確定拠出年金 iDeCo、企業型DCなど)
- 不動産(自宅、投資用不動産など)
- その他の価値のあるもの(自動車、貴金属、骨董品など)
- 個人事業主の場合の事業用資産
- 負債:
- 住宅ローン
- 自動車ローン
- 教育ローン
- カードローン、キャッシング
- その他借入金
これらの資産・負債を、ご自身のもの、パートナーのもの、そして共同で所有しているもの(共同名義の預貯金口座や不動産など)に分けてリスト化します。エクセルなどの表計算ソフトを利用したり、市販の家計簿アプリや資産管理ツールを活用したりするのも良い方法です。
この段階で、例えば「生命保険に入っているけれど、パートナーが保険金を受け取れる設定になっているか分からない」「パートナーとの共同名義の資産がどれくらいあるか曖昧だった」といった、具体的な確認事項が見つかることがあります。
ステップ2:資産状況の分析と課題の特定
資産の見える化ができたら、次にその内容を分析します。
- 総資産・純資産の把握: 資産合計から負債合計を差し引いた純資産がいくらあるかを確認します。純資産がマイナスの場合は、早急な対策が必要です。
- 資産構成の確認: 資産が預貯金に偏っていないか、特定の金融商品に集中しすぎていないかなどを確認します。リスク分散の観点から、資産構成のバランスを考えるきっかけになります。
- キャッシュフローの把握: 収入と支出のバランス(毎月どれくらい貯蓄や投資に回せるか)も確認します。これは資産を「育てる」ための元手となります。
そして、LGBTQ+カップルとして考慮すべき点も含めて、現状の課題を特定します。
- 法的な保護の限界: パートナーシップ制度は自治体が独自に設けているものであり、法的な効力(相続権や配偶者控除など)は基本的にありません。相続や税金、医療同意などにおいて、法的な関係性が認められている夫婦とは異なる状況に直面することを前提に考える必要があります。例えば、遺言書がない場合、パートナーには法定相続権がないため、たとえ長年連れ添った間柄であっても法的には財産を相続できません。
- 共同名義資産のリスク: 共同名義で不動産などを所有している場合、共有者の一方に何かあった際の権利関係や手続きが複雑になる可能性があります。
- ライフイベントに向けた準備不足: マイホーム購入、子育て、リタイアなど、将来のライフイベントに向けて必要な資金目標に対し、現状の資産形成ペースで間に合うか。
これらの分析と課題特定を通じて、「パートナーに確実に財産を残すためには遺言書が必要だ」「〇年後のリタイアに向けて、今の貯蓄ペースでは不十分なので投資を始める必要がある」といった、具体的な対策の方向性が見えてきます。
ステップ3:将来目標の設定と管理・運用計画の策定
資産状況と課題が明らかになったら、次は具体的な将来目標を設定し、それを達成するための管理・運用計画を策定します。
将来目標は、できるだけ具体的である方が計画を立てやすくなります。例えば、「5年後にマイホーム購入のために頭金として〇〇円を準備する」「20年後にリタイアし、年間〇〇円の生活費を確保できるよう資産を取り崩す」といった形です。パートナーとよく話し合い、お二人の価値観や希望に沿った目標を設定しましょう。
目標が設定できたら、その目標達成のための具体的な計画を立てます。
- 貯蓄計画: 毎月いくら貯蓄に回すか。
- 投資計画: どのような金融商品(投資信託、株式、保険など)を活用し、毎月・毎年いくらを投資するか。投資にはリスクが伴うため、お二人のリスク許容度(どれくらい損失を許容できるか)を理解した上で商品を選ぶことが重要です。例えば、NISAやiDeCoといった非課税制度を活用することも有効な選択肢です。
- 支出の見直し: 目標達成のために、無駄な支出がないかを見直し、削減できる部分がないかを検討します。
- 保険の見直し: 万が一の際に、パートナーが困らないよう、生命保険や医療保険の保障内容や受取人指定を確認・見直します。
- 法的な備え: 相続権がないパートナーに資産を残すための遺言書作成、判断能力が低下した場合に備える任意後見制度、死後事務委任契約など、LGBTQ+カップルが安心して暮らすための法的な手続きも計画に含めます。パートナーシップ契約や公正証書の活用も検討できます。
これらの計画は、お二人の資産状況、収入、ライフスタイル、そして将来の目標によって異なります。無理のない範囲で、かつ着実に目標に近づけるような計画を立てることが大切です。
ステップ4:計画の実行と定期的な見直し
計画を立てるだけでなく、実行に移すことが最も重要です。立てた計画に従って、貯蓄や投資を開始し、必要に応じて法的な手続きを進めましょう。
また、資産管理計画は一度立てたら終わりではありません。ライフステージの変化(引っ越し、転職、家族構成の変化、収入の増減など)や、法改正、経済状況の変化などに応じて、計画が現状に合わなくなることがあります。そのため、定期的に(例えば年に一度など)計画を見直し、必要に応じて修正することが非常に重要です。
パートナーとのコミュニケーションを密にすることも欠かせません。資産状況の共有、目標の再確認、計画の進捗状況などを定期的に話し合うことで、お二人で協力しながら安心して将来を築いていくことができます。
専門家の活用も視野に
資産管理や将来計画は、専門的な知識が必要となる場面も少なくありません。一人で、あるいはパートナーと二人だけで進めるのが難しいと感じる場合は、専門家のサポートを受けることも検討しましょう。
ファイナンシャルプランナー(FP)は、家計全体の状況を分析し、ライフプランに合わせた資金計画や資産運用、保険、税金、相続などについて総合的なアドバイスを提供してくれます。また、法的な手続きについては弁護士や司法書士、相続税については税理士といった専門家が力になってくれます。
近年は、LGBTQ+コミュニティへの理解があることを明示している専門家も増えています。「LGBTQ+フレンドリー 専門家」といったキーワードで検索したり、信頼できる情報源から紹介を受けたりすることで、安心して相談できる専門家を見つけやすくなっています。
まとめ:パートナーと共に安心な未来を築くために
LGBTQ+カップルがパートナーとの資産を「見える化」し、管理・運用計画を立てることは、将来の安心を確保するための非常に価値のある取り組みです。
- 資産の「見える化」: まず、ご自身とパートナーの資産・負債を全てリストアップし、現状を正確に把握します。
- 分析と課題特定: リストをもとに資産状況を分析し、LGBTQ+カップルとして考慮すべき点を含めた課題を特定します。
- 目標設定と計画策定: 将来の具体的な目標を設定し、それを達成するための貯蓄、投資、法的な備えなどを含む管理・運用計画を立てます。
- 実行と見直し: 計画を実行に移し、定期的に見直しを行うことで、変化に対応しながら着実に目標に近づきます。
このプロセスを通じて、お二人の経済的な基盤を強化し、予期せぬ出来事にも対応できる柔軟性を身につけることができます。時間はかかるかもしれませんが、パートナーと協力し、必要に応じて専門家のサポートも借りながら、一歩ずつ進んでいきましょう。この記事が、皆様がパートナーと共に安心できる未来を築くための、具体的な行動を始めるきっかけとなれば幸いです。